非線形反復・時間積分¶
FrontISTR の解析は,ステップごとの増分制御の中で,各サブステップにおいて非線形反復と時間積分を組み合わせて解を進める.本ページでは,外側のステップ制御と内側の線形ソルバの間に位置する反復構造,すなわち Newton-Raphson 反復,接触反復,動解析の時間積分,非定常熱伝導の時間進行と非線形反復の枠組みを扱う.
機能の全体像¶
ステップ内で行われる非線形求解と時間積分は,外側から内側に向かって複数のループが入れ子になる構造を持つ.各層は次の役割を担う.
| 階層 | 役割 | 主な担当ページ |
|---|---|---|
| ステップループ | 解析全体を複数ステップに分け,境界条件・荷重・接触・要素活性化を切り替える. | ステップ制御 |
| サブステップループ | 1 ステップを時間増分に分け,固定増分または自動増分・カットバックで進める. | ステップ制御 |
| 時間積分の状態前進 | 動解析・非定常熱伝導で,前ステップの状態から次時刻の状態を求める. | 本ページ |
| 接触状態探索ループ | 接触解析で,接触状態(付着・離反)の変化を探索し剛性行列の構造を更新する. | 本ページ |
| 拡張 Lagrange 外側反復 | ALAGRANGE 接触で,接触拘束精度を段階的に改善する. |
本ページ |
| Newton 反復 | 非線形つり合い方程式を Newton-Raphson 法で反復的に解く. | 本ページ |
| 線形連立方程式求解 | 各 Newton 反復で接線剛性行列に基づく線形系を解く. | ソルバー・前処理 |
解析種別ごとに,これらの層のうちどこまでが登場するかは異なる.
| 解析種別 | 時間積分 | 接触状態探索 | 外側反復 | Newton 反復 |
|---|---|---|---|---|
| 線形静解析 | — | — | — | — |
| 非線形静解析(接触なし) | — | — | — | あり |
非線形静解析(SLAGRANGE 接触) |
— | あり | — | あり |
非線形静解析(ALAGRANGE 接触) |
— | あり | あり | あり |
| 動解析 陰解法 | Newmark-β | — | — | あり(非線形時) |
| 動解析 陽解法 | 中央差分 | — | — | — |
| 周波数応答解析 | モード重ね合わせ | — | — | — |
| 非定常熱伝導 | Crank-Nicolson / Backward Euler | — | — | あり(材料温度依存時) |
| 定常熱伝導 | — | — | — | あり(材料温度依存時) |
接触のタイプとアルゴリズムの選び方そのものは 接触・埋め込み を参照する.本ページでは,選んだアルゴリズムが反復ループとしてどのように構成されるかを扱う.
解法の選び方¶
反復構造は,解析種別の選択(解析タイプ),非線形性の有無(幾何非線形・材料非線形・接触),接触アルゴリズム(SLAGRANGE または ALAGRANGE)から自動的に決まる.ユーザが直接調整するのは,反復回数の上限と収束判定値である.
調整の指針は次のとおりである.
- 反復回数の上限は,標準的な解析であれば既定値で十分動作する.収束しにくい問題で「最大反復に達して非収束」となる場合は,まずカットバック(ステップ制御)を併用し,それでも改善しないときに上限を増やす.
- 収束判定値は,解析の安定性と計算時間のバランスで調整する.厳しくするほどつり合い精度は高まるが,反復回数が増える.接触解析や Lagrange 乗数を含む解析では,残差判定だけでなく変位増分判定や Lagrange 判定を併用すると安定性が改善する.
- 動解析の時間積分パラメータ(Newmark-β の係数)は,標準的な値の組合せで開始し,振動応答の数値減衰特性を変えたい場合に調整する.
- 非定常熱伝導の時間積分スキームは,温度変化が滑らかな問題では Crank-Nicolson,急峻な変化や長時間の安定性を重視する場合は Backward Euler を選ぶ.
静解析の Newton-Raphson 反復¶
非線形静解析では,幾何非線形・材料非線形のいずれかを含むつり合い方程式を Newton-Raphson 法で反復的に解く.各反復は次の手順で進む.
- 現時点の解で残差ベクトル \(\boldsymbol{R}\) を評価する.
- 接線剛性行列 \(\boldsymbol{K}_T\) を組み立てる.
- 線形系 \(\boldsymbol{K}_T \Delta \boldsymbol{u} = -\boldsymbol{R}\) を解いて変位修正量 \(\Delta \boldsymbol{u}\) を得る.
- 解を \(\boldsymbol{u} \leftarrow \boldsymbol{u} + \Delta \boldsymbol{u}\) で更新する.
- 収束判定値と比較し,収束していれば反復を終える.収束していなければ手順 1 に戻る.
線形系の求解(手順 3)は線形ソルバが担う.ソルバ・前処理の選択は ソルバー・前処理 を参照する.
反復の制御は,!STEP のステップ制御パラメータで行う.主な制御値は次のとおりである.
| 役割 | パラメータ |
|---|---|
| 反復回数の上限. 上限に達して収束しない場合はカットバック対象となる. | MAXITER |
| 残差ノルムの相対値による収束判定値. | CONVERG |
| 変位修正量のノルム比による収束判定値.残差判定との併用で安定性を改善する. | CONVERG_DDISP |
| 残差ノルムの発散判定値.これを超えた時点で反復を打ち切る. | MAXRES |
ステップ制御 で自動増分・カットバックの判定に使われる Newton 反復回数の最大値は,このページで述べる Newton 反復の回数を指す.自動増分は,反復回数が少なく済んだサブステップの後では時間増分を増やし,反復が多くかかったサブステップの後では時間増分を減らす.
静解析の接触反復¶
接触解析では,接触面の付着・離反・すべりによって接触状態が反復中に変化するため,Newton 反復は接触状態の更新と組み合わせて構成される.構成は,接触解法アルゴリズムによって異なる.
両アルゴリズムに共通して,最も外側に 接触状態探索ループ が置かれる.このループの各回では,内側で Newton 反復を収束させた後に接触状態(付着・離反)を再評価し,状態に変化があれば剛性行列の構造を更新して再度内側の反復を回す.接触状態が前回と変わらず,かつ接触の収束判定(接触力・Lagrange 乗数の判定)を満たした時点でループを終える.上限回数は !STEP の MAXCONTITER で指定する.
SLAGRANGE 接触では,標準 Lagrange 乗数法により接触自由度を線形系に組み込み,接触状態探索ループの内側に Newton 反復を直接置く二層構造となる.拡張 Lagrange 反復は介在しない.
ALAGRANGE 接触では,接触状態探索ループの内側にさらに拡張 Lagrange 反復を置き,その内側で Newton 反復を行う三層構造をとる.拡張 Lagrange 反復の各回で接触拘束をペナルティ項と Lagrange 乗数の組合せで評価し直し,拘束精度を段階的に改善する.拡張 Lagrange 反復の回数の上限は !CONTACT_ALGO の AUGITER で指定する.
接触反復の制御値は次のとおりである.
| 役割 | 指定先 |
|---|---|
接触状態探索ループの回数の上限. SLAGRANGE / ALAGRANGE の両方で用いる. |
!STEP の MAXCONTITER |
拡張 Lagrange 反復の回数の上限. ALAGRANGE でのみ用いる. |
!CONTACT_ALGO の AUGITER |
| Lagrange 乗数の修正量に対する収束判定値.接触ありの解析で残差判定と併用する. | !STEP の CONVERG_LAG |
ステップ制御 の自動増分判定で参照される接触反復回数は,このページで述べる接触状態更新を含む反復の回数を指す.接触の付着・離反が頻繁に発生する解析では接触反復回数が増える傾向にあり,自動増分・カットバックの判定にも影響する.接触のタイプ・ペア定義・アルゴリズム選択そのものは 接触・埋め込み を参照する.接触自由度を含む線形系の解き方は ソルバー・前処理 を参照する.
動解析の時間積分(陰解法)¶
動解析の陰解法は,Newmark-β 法を用いて各時間ステップで次時刻の変位・速度・加速度を関係づけ,運動方程式と組み合わせて時刻 \(t + \Delta t\) の状態を求める方式である.時間刻み \(\Delta t\) に対して安定性の制約が緩く,低周波成分が支配的な構造応答を効率よく解ける.
時間積分のパラメータは次の 2 つである.
| パラメータ | 役割 |
|---|---|
| \(\beta\) | 変位の時間補間に関わる係数. |
| \(\gamma\) | 速度の時間補間に関わる係数. |
\(\beta = 1/4\),\(\gamma = 1/2\) の組合せは平均加速度法と呼ばれ,無条件安定で数値減衰のない標準的な選択である.数値減衰を導入したい場合は \(\gamma\) を \(1/2\) より大きくとる.パラメータの値の組合せと安定性・誤差特性の数学的詳細は理論マニュアルを参照する.
非線形性(幾何非線形・材料非線形・接触)を含む場合は,各時間ステップ内で Newton 反復を回し,反復内で線形系を解いて状態を更新する.収束判定値は静解析と共通の CONVERG 等を用いる.接触を伴う動解析では,静解析の接触反復 と同じ反復構造が時間ステップ内に組み込まれる.
動解析の時間刻みは,!STEP の時間条件を基本として制御する.固定増分では !STEP の DTIME を時間刻み,ETIME をステップ時間幅として指定する.!DYNAMIC の n_step と t_delta は,!STEP を省略した場合や後方互換のための既定値として扱う.非線形陰解法では !STEP の INC_TYPE=AUTO により自動増分・カットバックを有効にでき,Newton 反復や接触反復の状況に応じて時間刻みを増減する.固定増分を使う場合も自動増分を使う場合も,時間刻みは収束性と要求精度の両面から設定する.
動解析の時間積分(陽解法)¶
動解析の陽解法は,中央差分法を用いて前時刻の変位・速度・加速度の情報のみから次時刻の状態を直接算出する方式である.連立方程式を解かないため,1 ステップあたりの計算コストは小さい.非線形性を含む場合でも,各時間ステップで Newton 反復を行わない単段の更新となる.
時間刻みには,系の最小固有周期に基づく安定性条件(CFL 条件)の上限がある.この上限を超える時間刻みでは数値解が発散するため,陰解法のように大きな時間刻みを取ることはできない.衝撃・波動伝播・高速接触のように,もともと小さな時間刻みが必要な現象で陽解法は有利となる.
接触を伴う場合は Forward Increment Lagrange 法で接触拘束を扱う.陽解法の単段更新と整合する形で接触力を評価する.
周波数応答解析の解法¶
周波数応答解析は,モード重ね合わせ法により周期定常応答を周波数領域で直接求める.加振周波数を変えながら応答を評価する解法であり,時刻歴を反復で追う必要はない.非線形反復・時間積分はいずれも行わない.
周波数応答解析の実行には,事前に同じ系で固有値解析を行い,必要な数の固有モードを抽出しておく必要がある.対応するのは線形モデルのみであり,幾何非線形・材料非線形を有効にした場合は実行できない.解析種別の位置づけは 解析タイプ を参照する.
非定常熱伝導の時間進行と非線形反復¶
非定常熱伝導は,!HEAT の中で完結する独自の時間ループを持つ.構造解析の !STEP および !AUTOINC_PARAM とは別の経路で時間刻みを制御し,材料物性が温度依存の場合は各時間刻みの内部で非線形反復を行う.
時間積分スキームは !HEAT の \(\beta\) パラメータで選択する.
| \(\beta\) | スキーム | 特性 |
|---|---|---|
| 0.5 | Crank-Nicolson 法 | 2 次精度.温度変化が滑らかな問題に適する. |
| 1.0 | Backward Euler 法 | 1 次精度.無条件安定で長時間解析や急峻な温度変化で安定性を確保しやすい. |
時間刻みは,初期時間刻み,最小時間刻み,1 ステップでの最大温度変化を組み合わせて適応的に制御される.各時間刻みでの計算後に温度変化が DELTMX を超えた場合は時間刻みを縮小して再計算する.時間刻みが最小時間刻み DTMIN を下回ると解析を中断する.
材料物性が温度依存の場合,各時間刻みの内部で非線形反復を行う.反復の制御は次のとおりである.
| 役割 | パラメータ |
|---|---|
| 非線形反復の上限. | !HEAT の ITMAX |
| 収束判定値. | !HEAT の EPS |
定常熱伝導では時間刻みは用いず,材料が温度依存の場合に非線形反復のみが行われる.熱伝導解析の時間制御は構造解析の !STEP と独立しているため,時間刻みを調整する場合は !HEAT の指定を確認する.
関連項目¶
- 解析タイプ — 解析種別ごとの位置づけ.
- 接触・埋め込み — 接触のタイプ・ペア定義・解法アルゴリズムの選び方.
- ソルバー・前処理 — Newton 反復内で呼ばれる線形連立方程式の求解.
- ステップ制御 — 外側のステップ・サブステップ制御と自動増分・カットバック.
- Newton-Raphson 法(理論) — 反復解法の定式化.
- 収束判定(理論) — 収束指標の数学的定義.
- 動的解析手法(理論) — Newmark-β 法・中央差分法の定式化.
- 非定常熱伝導解析(理論) — 熱伝導の時間積分の定式化.
- 接触解析(理論) — Lagrange 乗数法の定式化.
- キーワードリファレンス: !STEP,!CONTACT_ALGO,!DYNAMIC,!HEAT.